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ホーム  > 経済学部だより  > 最先端・次世代研究開発支援プログラム 高木先生

最先端・次世代研究開発支援プログラム 高木先生

この2月から、内閣府が執り行う「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の研究に着手することになりました。課題名は、「高齢・障害者の雇用と日本の新しい社会システム」といいます。採択に至るまでの間ご支援くださった方々に、この場をお借りして心からお礼を申し上げます。

ここで少しだけ、本プログラムの対象となった研究の内容について触れたいと思います。私はこれまで主として高年齢者の雇用問題を研究してきました。調査研究の過程で強く感じたことは、この国には就業意欲を持つ人が多く、働くことを善とする人が多いということです。しかし問題は、依然としてその諸力を汲み取る雇用が十分には進んでいないことにあります。この問いを解く糸口を見つけるために、2008年に『高年齢者雇用のマネジメント』という本を書きました。これから始める研究は、本課題をさらに深く掘り下げ、また前進させるために行うものです。

この研究の目標は、日本そして諸外国が健康的で活力ある社会を築いていくために、これまで雇用・労働システムから排除されがちであった高年齢者および障害者の人々を、「働く場」に招き入れるための社会環境づくりについて検討することにあります。そのために私がとる分析スタイルは、これまで通説とされてきたことをもう一度問い直してみるというものです。これは授業を通じていつも学生さんたちに言っていることでもあります。
たとえば、他の先進諸国と比較して常に非難されてきた日本の政策は、本当に否定されるべきものであったのだろうか、という疑問があります。他国が制定している差別禁止法が高齢・障害者問題の解決における唯一最良の道筋とはいえない可能性もあると思っています。また雇用問題を考える際に、従来はマッチング問題に焦点が当てられがちでしたが、就業後のリテンションが実は極めて重要なのではないかと考えています。そこに焦点を当てた場合に、日本特有の勤労観や雇用管理はどのような意味を持つのだろうか、という興味が湧いてきます。そして、福祉・保障の問題と、雇用政策に基づく自立の問題は、それぞれの専門家によって別々に議論が展開されてきた感がありますが、実際にはこの問題は、同じ一人の人間の身に起こる問題です。ですから、高齢・障害者の「保障」と「自立」の均衡点があるとすれば、それはどこにあるのだろうか、ということも模索していきたいと考えています。
世界一の高齢国となった我が国の高齢・障害施策に今各国が注目しています。高齢化がますます進展する中にあって、日本はさらに健康的で活動的な人々を多く擁する社会システムを構築し、持続的成長を遂げていく必要があると思います。そのことは、他の多くの高齢先進国にとっても重要な意味を持つと考えるからです。

ところで近年、国が配分する研究開発費の比重が、理系中心にさらに大きく傾いてきているように感じます。しかし今後どのように社会が変わっていこうとも、人文・社会科学の重要性が薄れることはないと思いますし、また失われるべきではないと考えます。この度の研究では、そうした意識をもって一定の成果を収めていきたいと考えています。
本プログラムは、前政権時に閣議決定され、その後政権交代を経て具体化された「新成長戦略」という国家戦略の枠組みの中で設けられ、政治主導による研究開発基金事業として位置づけられていると伺っています。しかし私自身は現政権のために研究を行うという意識はありません。日本だけではなく、あらゆる国々がより良い社会に向かって進んでいくことを願って、少なくとも四半世紀後の世界を頭に思い描き、今自分ができることをただこつこつと積み上げていきたいと思っています。