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敬愛大学 第3回高校生論文コンテスト 佳作


私と房総 〜谷津田に生きる〜
千葉県立茂原農業高等学校3年 佐々木 義介

 私は、茂原市の粟生野というところに住んでいる。周囲を田んぼで囲まれている、自然の多いところだ。私にとっての房総の自然とは、私の住んでいるところから近い里山の自然「谷津田」である。

 谷津田という言葉自体知らない人も多いだろう。谷津田とは、山と山の間に造られる里山の1つである。谷津田は、農地として活用できるだけでなく、多様な動植物の生息場所になる生物の宝庫である。しかし現在は、耕作不利な立地と、農業者の高齢化のため谷津田の放棄が進んでいる。

 谷津田の放棄を止める、放棄された谷津田を復活させることは、単に農地の再生が目的なのではない。耕作不利な農地の開墾をあえて行うことが環境の回復につながるのである。その一つが谷津田なのだ。例えば、そういう農地を課外授業に取り入れるのはどうだろうか。子どもの頃から、たくさんの命に触れることはとても大切なことだと思う。更に、小さいころから農業を体験することが将来の日本の農業者の育成にもつながるのではないか。農業は、ただ生産するだけの時代はすでに終わったのだ。これからの農業は生産と環境保全の2つを兼ね備えた新しい農法、農地、農業が必要なのだと思う。

 私が谷津田を初めて知ったのは、高校に入ってまもなくのことである。私は入学したとき、茂原農業高校農業土木科の現在の活動報告の中で、初めて「谷津田」という言葉に出会った。

 その中でも農業土木部は、里山、そして谷津田を中心に地域環境の保全、生物の多様性について研究活動をしていた。私は周囲の先生の勧めや、友人、中学校でお世話になった先輩の誘いもあって、農業土木部へ入部した。

 谷津田へ訪れたのは、入部してまもなくのことだった。谷津田とは、山と山の間に造られた水田のことだとあらかじめ説明を受けてはいた。しかし私が見たのは、山に囲まれたただの荒地だった。

 先輩が言うには、ここはもともと田んぼだったが30年前から放棄され、荒れてしまったのだそうだ。確かにそこは荒地だった。だが、緑が一つも無いという意味での荒地ではない。むしろ草木は、青々と生い茂っていたのだ。背の高い雑草が所狭しと広がっており、視界を遮られる。地面にもその周囲にすら、もともとそこに田んぼがあったという痕跡もなく、本当にここで稲作をやっていたというのが信じられないほどである。これでは、生物の多様性どころか水田稲作ができるかどうかも怪しいものだ。そんなことを考えつつ、1年生だった私は初めての作業にとりかかった。

 初めての作業は、雑草を抜くことだった。一面に生い茂る雑草を、根っこからひとつひとつ根気よく抜く作業だ。草取りは初めてではないが、そこは元々田んぼだったところである。地面はぬかるんでいて長靴が抜けなくなることもたびたび起こる。乾いた田んぼに比べて、作業はとてもやりづらかった。ようやく作業を終えたときには全身泥だらけだったが、なんともいえない充足感でいっぱいだった。その後、農道や放棄水田の復活を行った。夏はこの1年の中で最も大変だった。台風による雨が続く中での水田のため池造りなど、私たちの谷津田復活に向けた一年目は重要な仕事の連続だった。

 2年目は、私たちの活動の中心となる「ビオ田んぼ」の開墾を行った。ビオ田んぼとは、生物保全と耕作の効率上昇を目指した水田である。生物の多様性を高めるため、様々な工夫を施してある。1つ目は、「極小区画水田」だ。極小区画水田とは、田んぼの面積を小さくすることで機械を使えない谷津田でも、人の手で十分作業が行える面積にする農法である。また、水際部分が増えることで田んぼの生きものの生息空間を増やすこともできる。2つ目は、水田畦を2つにする「ダブル畦構造」だ。こうすることで、畦と畦の間に湿地ゾーンが生まれる。湿地には、生きものや植物が集まりやすいことを知っていたので、わざわざこのような畦を造った。湿地ゾーンのおかげで、畦を住処とするカエル、クモ、バッタを呼ぶことができた。このダブル畦と、極小区画水田を融合させたのが私たちの造ったビオ田んぼである。

 しかしこの田んぼにも、いくつか改善すべき点が出てきた。最も大きな点は、米の収極量の減少だ。原因は、極小区画とダブル畦にしたことによる面積の減少である。生物の多様性を高めるのには効果的だが、収量の減少は抑えなくてはならない。

 そこで、現在考えている案として水田の「環境直接支払い制度」がある。他県で、現在モデル事業として実施されているこの制度は、田んぼが生きものを保全した、または環境を保全したということで県から支援金が支払われるというものである。このような制度を千葉県でも普及させることができれば、たとえ収量が減少しても生きものや環境を保全することに、農業者が意義を見出せる。支援金が出ることも重要だが、県が一致団結して環境保全に取り組む姿勢が最も重要なのだ。

 私たちの現在の目標は当然谷津田、放棄水田の復活なのだがそれだけではない。一番大きな目標は「千葉県にトキを呼び戻す」ことだ。なぜ、千葉でトキなのかと思う人もいるかも知れないが、これにはちゃんとした根拠がある。

 第1に、私たちが活動を行っている谷津田は約30年前に放棄されたが、その近辺には、同じく30年ほど前に地元の方によるトキ目撃情報がいくつもあるのだ。つまり、谷津田を復活させるということは、千葉県のかつてのトキの住処を復活させるということなのだ。

 第2に、それを裏付ける報告が昨年、千葉県立中央博物館「谷津田シンポジウム」で、中国のトキ研究者蘇雲山氏によって発表された。その報告によると「千葉県の谷津田は中国のトキの生息環境によく似ている。県全体で谷津田の保全活動が続けばトキが戻れるようになるかもしれない」とある。

 また第3に、佐渡にあるトキの野生復帰連絡協議会の高野毅会長と交流のため、私たちが直接佐渡に赴いた。そして、高野会長に私たちのプロジェクトを説明し、また会長からトキに関する貴重な情報を教えて頂いた。そのなかに、今年10月から、トキ保護センターで保護されているトキ10羽を野生放鳥するというプロジェクトについてのお話があった。さらに、トキが暮らせる生息環境についても伺うことができた。

 これらの情報を得て私たちは、私たちの谷津田にもトキを呼び戻すのは十分可能だと確信した。

 谷津田は、人の手が加わったことで30年ぶりに復活し、緑豊かな水田を取り戻した。だが、私たちの活動がここで終わったわけではない。むしろ、これからまた10年20年と継続して活動を行うことこそ重要なのだ。田んぼや池を作り、徐々に生き物が増えていくと、その思いもよりいっそう強くなった。今の私にとっての房総の自然とは、こうして守り語り継がれていく里山の自然なのだ。だから私は、これからもこの房総の自然を守っていきたいと心から思う。



お問合わせ 敬愛大学高校生論文コンテスト係
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